前座
「さよならの朝に約束の花をかざろう」というアニメ映画が、つい先日まで、5年ぶりに特別上映されていた。
さよ朝と略称されるこの映画は、あまり映画を見ない自分が述べたところで説得力は弱いかもしれないが、今までで間違いなく一番好きな映画だ。
5年前には2回見に行き、先日も1回、計3回見て、3回とも泣いた。
3回目ともなると、クライマックスもそうだが、むしろ最初に描かれている日常風景や、果ては雄大な空の背景を見るだけで、思わず泣きそうになってしまう。この尊く愛おしい日常は、時の流れという不可抗力によって、残酷にも過ぎ去っていく。そのことを認識した時、きっと自分の中で似たような経験をした記憶が呼び起こされて、思わず涙してしまうのだろうと思う。
そういえば、さよ朝を制作したメンバーがまた新しいアニメ映画を作っているという。
前作とは一変して随分とダークな雰囲気に、非凡なPVが興味をそそるが、果たして公開はいつだろうか。今から楽しみだ。
映画を見終わり、遅めの昼飯を食べるべくフードコートへ向かっていると、いきなり若い女性に声を掛けられた。
「良かったらキレイキレイどうぞ!」
普通こういうのってチラシ入りのティッシュだったりしないの?しかも4個も手渡された。もしかしてお前清潔感無いからこれでキレイにしろとかそういうメッセージだったりするの?
「良ければ簡単なアンケートに協力してもらえませんか?」
そういって女性は、テレビ番組の街頭調査で使うような、該当する項目に丸いシールを貼るボードのようなものを指さした。
もう内容はあまり覚えていないが、あなたは普段家で何を飲みますかとかそんな感じだった気がする。
"お茶やコーヒー"を指さすと、その女性はシールを貼らずに、
「実は今特別なキャンペーンを行っておりまして、なんとこのショッピングモールに訪れた方限定で、このウォーターサーバーをプレゼントしているんです!」と言ってきた。
色々と面白くて笑いそうになってしまった、というより普通に半笑いしてしまったが、特に急ぐ用事もなかったので、せっかくならセールストークでも聞いてどんな手口か確かめてみようと思い、とりあえず話を聞いては適当に相槌を打っていた。
面白いくらいメリットしか言わないし、少ない時間で沢山の手法を見ることができたので、個人的には有意義な時間だったと思う。
テクニカルタームは知らないので、適切な単語が出てこないが、人間が得するより損したくないと思う心理、ラッキーだと言って運命感を演出する方法、限定商法、果ては昨日は〇〇人もの方がお持ち帰りになりました、など……。
思わず「あなた方はこの商品でどうやって利益を出すんですか?」と聞いてしまいそうになったが、さすがにお腹も空いてきたので、一通りの説明を受けた後に、適当な理由を付けてお断りした。
そんなイベントも終わり、帰路につくためイヤホンを耳に突っ込んで駅前の広場を歩いていると、今度は別の若い女性に話しかけられた。
まさかこれはモテ期か!?モテ期なのか!?
その女性は少し寒さの和らいだ日にしては、しっかりと防寒対策をした格好をしていて、しかしそのコートか何かは桜色をしていて、一足早い春の訪れを予感させていた……自分はやはり小説は書けないですね。人物描写がヘタクソすぎる。それもそのはず、他人なんて大して見ていないので、書けるわけもないのだ。桜色をしていたのはコートだったかスカーフだったかマフラーだったかそれすら分かんねぇもん。ファッションにも興味ないしな。
「実は私、会社の研修で社会人にインタビューさせていただいているのですが、社会人でいらっしゃいますか?」
桜色をしていたのは僕の頭でした。
てか会社の研修ってなに……研修で見ず知らずの社会人に話しかけることある?その企業大丈夫?やっぱ働きたくねぇなぁ……。
社会人と見間違われるほど老けて見えるのかな……まぁ目の死に方とか猫背で早歩きな姿とかまんま社畜のそれだもんな。
見知らぬ若い女性に2回も話しかけられて、2回とも勧誘だか研修だか分からん話をされるとか、モテ期というかカモ期なんじゃないのこれ。確か実家にいたときも、駅前広場で勧誘のチラシを配っている宗教の人に、よく話しかけられたもんなぁ。やっぱ目が死んでるからこいつ落とせそうだとかそういう判断されるのかな……。
さて、これまた前座だけでだいぶ文字数を稼いでしまったので、今回は一旦ここまでとなる。本題の話はちゃんとあるのだが、最近忙しさが半端ないので、もしかしたら書けないかもしれない。